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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1351号 判決 1950年3月15日

被告人

川島武雄

主文

原判決を破棄する。

本件を岐阜地方裁判所高山支部に差し戻す。

理由

弁護人安井万次の控訴趣意について。

賭場開帳図利は犯人自ら主宰者となりその支配下に利益を得る目的を以て賭博をなさしむべき場所を開設するによつて成立するものであるが(大審院昭和二年十一月二十六日言渡同年(れ)第三八六号事件の判決及び同院昭和四年六月十日言渡同年(れ)第四五五号事件の判決参照)原審挙示の証拠によるも被告人は単に向島岩太郞外数名の依賴により若干の謝礼を貰い受ける約定の下に賭場として自宅裏の厩舍階上を提供し同人等は同所において俗に狐ちよぼ一という賭銭博奕をしたという事実を認め得る丈であつて被告人が主宰者となつて同賭場を開設しその支配の下に向島岩太郞等をして賭博をなさしめたという事実は認められない尤も被告人は同人等の依賴によつて蝋燭、握飯、塩せんべいを提供し又賭具の一部を貸与した事実は明かであるがかかる事実を以て直に被告人がその賭場を開設支配したものとは速断できない即ち原審の処置は虚無の証拠によつて事実を認定した違法があり該違法は判決に影響すること明かなるものというべくその趣旨において本件控訴は理由あり破棄を免れない。

(弁護人安井万次の控訴趣意)

凡そ賭場開帳罪とは開帳者自ら主宰者となりて其の支配下に賭博を為さしむべき場所を供給し寺銭等の名称を以て利得を收受せんと企図するに依つて成立し開帳者は自身主となりて賭博者を支配して為さしむ可き地位にありて賭博者は其の支配者に服して賭博を為すべき従たる関係にあるものたるや学説判例に徴し明白である。

然り而して開帳罪は本来賭博罪の幇助罪たる本質を有し此の幇助罪の中開帳者が図利の目的を以て自ら主宰者となりて其支配下に賭博を為さしめたる賭博幇助行為之を換言すれば開帳者自身主となり賭博者を支配して為さしむ可き地位にありて賭博者は其の支配者に服して賭博を為すべき従たる関係ある賭博幇助行為のみを簡抜して刑法に之を賭博開帳として規定せられたるや明白であつて賭博開帳罪の成立には右の支配関係と云う特質と図利の目的との二要件が必要である賭房の給与者賭具の給与者の如きは予め其の動機に於て其の給与に対する謝礼金を意欲したる事実あるも賭場の主宰者となり賭博者を支配したる要件なき限り何処までも賭博幇助罪たるや議論の余地はない。

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